「最近、台風が増えた」という実感
毎年秋になると、そう感じている人は多いと思います。ニュースは過去最大級の台風を伝え、被害の映像は年々生々しくなる。温暖化で海が暖まっているのだから、台風だって増えているはず——直感的には、そう繋がります。
では、実際に数えてみたらどうなるか。幸い、日本には世界に誇れる記録があります。気象庁(RSMC東京)が国際機関として維持しているベストトラック——1951年から現在までの全台風の位置・強度・気圧を収めた公式記録です。今回はこの75年分・1,951個を全部数えました。集計の正しさは、気象庁が公表する年間発生数(発生数最多の1967年=39個、最少の2010年=14個など6年分)と照合してすべて一致することを確認しています。
まず太陽活動 — 11年周期は台風に映るか
当サイトは宇宙天気を毎日観測条件として表示しているので、まず太陽から。太陽活動には約11年の周期があり、「太陽の勢いが台風に影響する」という説は昔から根強くあります。
結果は明快で、何の関係もありませんでした。太陽電波(F10.7)とも黒点数とも、年単位(相関 r≈+0.08、p>0.4)でも月単位(r≈+0.01)でも無関係。63年分──太陽周期およそ6周期ぶん──のデータで痕跡ゼロなので、「太陽活動で台風が増える」説は、少なくとも発生数については採用できません。
本題 — 気温は1.7℃上がった。台風は?
| 年代 | 台風発生数(年平均) | 東京の年平均気温 |
|---|---|---|
| 1960年代 | 29.6 個 | 15.4℃ |
| 1970年代 | 26.7 個 | 15.7℃ |
| 1980年代 | 27.0 個 | 15.6℃ |
| 1990年代 | 26.8 個 | 16.5℃ |
| 2000年代 | 23.9 個 | 16.7℃ |
| 2010年代 | 25.2 個 | 16.6℃ |
| 2020年代 | 23.3 個 | 17.1℃ |
気温の列は着実に上がっています。しかし台風の列は増えていません。長期トレンドは10年あたり−0.44個——増えるどころか、統計的な有意水準には届かないものの(p=0.082)、わずかに減る向きです。
実はこれ、気象学の主流の見解どおりの結果です。温暖化で変わると考えられているのは台風の発生数ではなく、強度と経路——一つひとつが強くなりやすく、強いまま日本に近づきやすくなる。「台風が増えた」という実感の正体は、おそらく数ではなく、強烈な台風の印象と被害の増加なのです。数えてみると、実感とデータはこんなふうにずれることがあります。
今回も出た、「有意な相関」という罠
ここからが検証ラボの本領です。「東京の気温」と「台風発生数」の相関をそのまま計算すると、r=−0.31、p=0.013——教科書的には「統計的に有意な負の相関」で、「温暖化すると台風が減る!」と書ける数字が出てしまいます。
でも、これは信じてはいけない数字です。理由は、気温には「上がり続ける」というトレンドが、発生数には「ゆるやかに減る」というトレンドがあること。ゆっくり動くものどうしは、因果がなくても相関が出ます。検査は簡単で、「前年からの変化量」どうし(一階差分)で相関を取り直すだけ——
| 東京気温 × 台風発生数 | 相関r | p値 |
|---|---|---|
| そのまま相関 | −0.31 | 0.013(「有意」に見える) |
| 一階差分(変化量どうし) | −0.02 | 0.86(消滅) |
| 前半・後半に分割 | −0.13 / −0.01 | 両方とも無意味(消滅) |
きれいに消えました。第2弾でも「太陽活動×気温」でまったく同じ型の偽相関を摘出しており、これで2回連続です。「p<0.05」は、それ単体では何の保証にもならない——トレンドを除き、期間を割り、それでも残るものだけを信じる。世の中の「〇〇と△△に有意な相関!」という記事の多くは、この検査をしていません。
天測運勢台としての結論
台風の発生数は、太陽活動とも無関係で、温暖化の75年でも増えていない。今回は市場も占いも出てこない、純粋な「観測」の回でした。それでもこの検証を載せるのは、当サイトが大事にしているのが「実感より、数えた事実」だからです。
占いを掲げるサイトが、太陽の周期は台風に映らないと自分のデータで確かめ、有意に見えた相関を自分の手で棄却する。逆説的ですが、それが当サイトの流儀です。事実の層(経済気候・宇宙天気)は本物の観測を毎日お届けし、意味づけの層(占い)はエンタメとして楽しんでいただく——この線引きは、こうした検証の積み重ねの上に立っています。
出典・関連ページ
- 台風データ気象庁 RSMC東京 ベストトラック(1951〜2025年・1,951個)。政府標準利用規約に基づく利用。年間発生数の公式統計と照合済み。
- 太陽活動・気温NASA GSFC OMNI データセット(F10.7・黒点数)/ 気象庁 過去の気象データ検索・東京。
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