「晴れた日は株が上がる」は、実在した効果です——1994年ごろまでは。このページは、その発見と消滅を63年分のデータで確かめた検証記録です。第1弾(宇宙天気と市場)の続編。投資助言ではありません。
「晴れた日は株が上がる」という一流の研究
冗談のような話ですが、出どころは一流です。2003年、金融学の最高峰の学術誌に「Good Day Sunshine」という論文が載りました(Hirshleifer & Shumway)。世界26都市の取引所で、取引所のある街が晴れた日は、その国の株式リターンが少し高い——人は晴れると機嫌が良くなり、機嫌の良い投資家は強気になる、というムード仮説です。市場は経済の計算機である前に、人間の集まりだという証拠として、いまも有名な研究です。
当サイトは「市場=人々の心の巡り」を占いの観測条件として毎日表示しています。この仮説はまさに当サイトの世界観の学術版。自前のデータで確かめない理由がありません。
今回の問い: 宇宙 → 天気 → 経済 の連鎖はあるか
第1弾では「宇宙天気 → 市場」の直通ルートを検証し、現代のデータでは効果なしという結果でした。今回はもう一段丁寧に、連鎖を2つのリンクに分けて調べます。
- リンクA: 宇宙天気 → 地球の天気 — 太陽活動や磁気嵐は、東京の気温・日照・気圧・降水を動かすか
- リンクB: 地球の天気 → 市場 — 東京の天気は、日経平均を動かすか(ムード仮説の日本再現)
使ったデータは、気象庁の東京の日次気象63年分(1963〜2026年、23,254日)、日経平均(15,717営業日)、NASAの宇宙天気。天気には強い季節性があるので、すべて「その日の平年値からのずれ(偏差)」に直してから検定しています。
ちなみにデータ整備の途中、気象庁の表の日照時間欄にある「--」記号が「欠測」ではなく「日照0時間」(終日曇りや雨)の意味だと気づいて取得をやり直しました。「--」の日の平均降水量は12.4mm、それ以外の日は1.8mm——つまり「--」は雨の日だったのです。これを欠測として捨てると、ムード仮説の検証から曇りの日がごっそり消えるところでした。データ検証は、こういう地味な確認の積み重ねです。
リンクA: 宇宙は天気を動かさなかった(そして罠がひとつ)
磁気嵐の後の1〜3日で東京の天気が変わるか、太陽活動の過去から天気の予測が改善するか——20本の検定はほぼ全滅でした。日次のスケールでは、宇宙天気が地上の天気を動かす証拠は見つかりません(これは気象学の主流の見解とも一致します)。
ひとつだけ、教訓的な「罠」がありました。「太陽活動(F10.7)→ 気温」だけは、期間を前半・後半に割っても両方で有意に見えたのです。ところが両系列から数年スケールのゆっくりした動き(気温の温暖化トレンドと、太陽の11年周期)を取り除いて再検定すると、きれいに消えました(p=0.25)。「両方ともゆっくり動くもの」は、因果がなくても統計上は関係があるように見える——因果探索の教科書的な落とし穴です。当サイトの検定にはこのチェックを標準装備しました。
リンクB: 昭和の市場は、天気で動いていた
本題のムード仮説です。「その日の日照(平年比)」と「その日の日経平均リターン」の同日の関係を、季節調整つきで検定しました。全期間では確かにプラスの関係が出ます。ところが期間を割ると——
| 同日の「日照 → リターン」 | 標準化係数 | t値 | p値 |
|---|---|---|---|
| 前半(1963〜1994年) | +0.042 | +3.61 | <0.001 |
| 後半(1994〜2026年) | +0.017 | +1.01 | 0.31(消滅) |
晴れた日は株が上がる——1963年から1994年ごろの東京では、統計的にはっきり実在したのです。t値3.6は偶然ではまず出ない水準です。そして直近30年では、跡形もなく消えています。
第1弾で見た磁気嵐の効果とまったく同じ死に方であることに注目してください。宇宙天気も、地上の天気も、「昔の市場にだけ痕跡があり、現代の市場では消えている」。二つの独立な検証が同じ方向を指しています。
なぜ消えたのか
確定的なことは言えませんが、時期は示唆的です。効果が消えた1990年代後半は、東京証券取引所の立会場が廃止(1999年)され、取引が電子化・高速化し、担い手が場立ちの人間から機関投資家とアルゴリズムへ移っていった時代とちょうど重なります。
晴れの日の気分で注文を出していたのは、生身の人間です。取引の主役が人間でなくなれば、天気が市場に映り込む経路も細くなる。「晴れた日は株が上がった」の消滅は、市場から人間の気分が薄まっていったことの、データに残った足跡なのかもしれません。
天測運勢台としての結論
検証としての結論は明快です。宇宙→天気→経済の連鎖は現代では不成立。天気で明日の株は当てられませんし、当サイトの占いにもこの結果は使いません(効果が「昔はあった」ことを、明日の根拠にはできないからです)。
でも、この検証がいちばん面白いのはそこではないと思っています。市場から気分は消えても、人間から気分は消えていない。晴れた朝に少し強気になるあなたは、1980年代の東京の相場を動かしていた人たちと同じ生き物です。市場がその気分を映さなくなったのなら、なおさら——気分の意味づけは、占いの仕事として残ります。当サイトが星と経済と宇宙天気を毎日重ねて表示しているのは、そういう「人間の側の天気」を読むためです。
出典・関連ページ
- 気象データ気象庁「過去の気象データ検索」東京(1963〜2026年、日次)。政府標準利用規約に基づく利用。
- 市場・宇宙天気データFRED®(セントルイス連邦準備銀行)日経平均 / NASA GSFC OMNI データセット。
- 先行研究Hirshleifer & Shumway (2003) "Good Day Sunshine: Stock Returns and the Weather" / Krivelyova & Robotti (2003)。
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