「満月の夜は事件や事故が増える」——結論から言うと、増えていません。占星術を掲げる当サイトが、自分の月相計算と公式データでこの俗説を棄却した記録です。ついでに、雨の日についての意外な事実がひとつ見つかりました。
世界でいちばん有名な「月の俗説」
英語で「lunatic(狂気)」の語源は月(luna)。満月の夜は犯罪が増える、救急外来が混む、出産が増える——この種の話は世界中にあり、医療や警察の現場にも「満月の夜は荒れる」という実感を持つ人が少なくありません。月が潮を動かすのだから、体の大部分が水分である人間も動かされるはず、という理屈までついてきます。
当サイトは占星術のサイトで、月の位置と満ち欠けを毎日計算しています。だからこそ、この説は検証する義務がある。もし本当なら大ニュースですし、違うなら違うと自分のデータで言うべきだからです。
検証の道具立て
使ったのは、警察庁が公開する交通事故統計オープンデータ——2019〜2024年の6年間、約186万件の事故の個票です(出典明示のもと利用が認められた公式データです)。1日平均848件。これを日ごとに数え、当サイトの天体計算(スイス天文暦)による月相と突き合わせました。満月・新月の判定は離角±15度(約±1.2日)です。
ひとつ大事な下ごしらえがあります。事故件数には月相よりはるかに強い「癖」がある——曜日(平日は通勤で多い)、季節(年末は多い)、年(コロナの2020年は激減)。これらを取り除かずに満月の日を比べると、たまたま金曜が多かっただけでも差が出てしまいます。そこで曜日・月・年の効果を統計的に差し引いた「その日が普段より多いか少ないか」だけを取り出して比較しました。
まず、この装置が壊れていないことを確かめる
「効果なし」という結論を出す検証には、実は罠があります。手法が鈍すぎて何も検出できないだけかもしれない。そこで先に、効果が確実に実在する組み合わせで装置の感度を確認します。雨と事故です。
| 陽性対照 | 増減 | p値 |
|---|---|---|
| 東京の雨の日(630日)× 東京の事故件数 | −4.9% | <0.0001 |
はっきり検出されました。つまりこの装置は、±2〜3%程度の変化なら確実に拾えます。
ところで符号に気づいたでしょうか。雨の日は事故が「増える」のではなく約5%減るのです。雨は一件あたりの危険を確かに上げますが、それ以上に自転車・バイク・歩行者が外に出なくなる。危険の増加より交通量の減少が勝つ——直感と逆の、数えてみて初めて分かる事実です。
本題 — 満月の夜
| 対象 | 月相 | 増減 | p値 |
|---|---|---|---|
| 全国の事故件数 | 満月 | −1.3% | 0.29(効果なし) |
| 全国の事故件数 | 新月 | −0.8% | 0.57(効果なし) |
| 死亡事故件数 | 満月 | −2.5% | 0.41(効果なし) |
| 死亡事故件数 | 新月 | −2.7% | 0.33(効果なし) |
4本すべて、効果なし。雨の−4.9%を余裕で検出した装置が、満月には何の反応も示しませんでした。186万件のデータで見つからないのですから、仮に効果があったとしても実用上ゼロです。海外でも救急搬送・犯罪・出産で同じ検証が繰り返され、結論はやはり「効果なし」——今回の結果はそれと完全に整合します。
では、なぜ現場の実感は消えないのか
データになくて実感にあるもの——それは記憶の偏りで説明がつきます。満月の夜に救急外来が荒れれば「やっぱり満月だ」と記憶に残り、何もなかった満月の夜は忘れられる。半月の夜に荒れても、誰も月のせいにしません。これは確証バイアスと呼ばれる、人間の認知の正常な癖です。俗説が何百年も生き延びてきたのは、月に力があるからではなく、私たちの記憶が物語を好むからなのです。
天測運勢台としての結論
月は、事故を増やしません。当サイトはこれからも毎日月相を計算し、表示し続けますが、それは月が現実の統計を動かすからではありません。
俗説と占いの違いは、ここにあると考えています。「満月の夜は事故が増える」は事実についての主張なので、データで検証でき、検証したら偽でした。一方「満月の夜に自分の気持ちの満ち欠けを振り返る」のは意味づけであって、真偽の問題ではありません。当サイトの占いは後者です。事実の層(経済気候・宇宙天気・月相)は本物の観測を、意味づけの層(運勢)はエンタメを——この線引きを、俗説を自分の手で棄却することで守っていきます。
出典・関連ページ
- 交通事故データ警察庁 交通事故統計オープンデータ(2019〜2024年・約186万件)。政府標準利用規約に基づく利用。当サイトでは日次集計値のみ保持。
- 月相自前計算(Swiss Ephemeris / pyswisseph)。気象は気象庁・東京。
- 関連する海外研究満月と救急搬送・犯罪・出産に関するメタ分析は一貫して効果を支持していません(いわゆる lunar effect 研究)。
検証ラボ 第5弾: 水星逆行の日、事故は増えていなかった →
検証ラボ 総集編: 星と天気と経済をつないでみたら、世界は「島」だった →
検証ラボ 第6弾: 雨の夜は、事故が9%増える →
第1弾: 宇宙天気は株式市場を動かすのか → 第2弾: 晴れた日は株が上がった → 第3弾: 温暖化で台風は増えていると思っていませんか →