偽相関という遊び
統計の世界には「偽相関ギャラリー」という有名な遊びがあります。ニコラス・ケイジの出演本数とプールの溺死者数は連動する、という類の——十分たくさんの組み合わせを試せば、無関係な2つが偶然そっくりに動く例は必ず見つかる、という教訓です。
私たちの連鎖探索機(気象・宇宙・暦・市場×家計調査691品目、約69,000検定)もまた、この種の「偶然の宝石」を拾いました。地磁気の乱れ(Kp)が大きい3か月後はコーヒーへの支出が少ない。太陽風が濃い月はもやしが売れる。一粒万倍日が多い月は乾燥スープが売れない。市場が不安(VIX)な月はいかが売れる。——どう考えても偽物です。そこで、偽物であることを実演するために「退場試験」を用意しました。
退場試験の手続きと、起きたこと
手続きは事前に宣言しました(結果を見てから基準を変えないため)。機械に一度も見せていない封印データ(2018年以降)で同じ相関を測り、消えることを確認する——本命の「天気と財布の法則」20本(こちらは全部本物でした)と同じ試験です。
結果: 4本のうち3本が、生き残りました(太陽風→コーヒーの1本だけ消滅)。偶然が2度続く確率ではありません。慌てた私たちは追加の検査を重ねました:
| 検査 | 狙い | 結果 |
|---|---|---|
| 封印データでの再測定 | 偶然の当たりなら初見のデータで消える | 生存 |
| 低周波の除去(2年超のうねりをカット) | 太陽の11年周期と消費の長期漂流の偶然の同調なら消える | 生存 |
| 帰無分布の実測(同じ手順で全691品目と総当たり) | 手法自体が偽の相関を量産していないか | 正常(この4本は上位0.2%の外れ値) |
| 暦の微細構造(月の日数・土日の数)の統制 | 両者に共通するカレンダーの癖なら消える | 無関係 |
仮説を立てて、自分で潰した記録
「VIX(市場の不安)が高い月は、いかへの支出が多い」。当初、筋の通りそうな経路を思いつきました。家計調査の数字は支出額=価格×数量で、値上がりするだけで支出は増える。いか釣り漁は集魚灯を焚く燃料集約型だから、市場の不安→燃料高→いかの値上がり→支出増、という鎖です。
もっともらしい話でしょう?——しかし前提を測ったら崩れました。VIXが高い月、原油はむしろ下がっていました(ρ=−0.20)。市場の不安が跳ね上がるのは金融危機の局面で、そのとき原油は高騰ではなく暴落します(2008年、2020年)。原油といかの支出にも意味のある繋がりはありませんでした。仮説は棄却。もっともらしい物語ほど、測ってから信じるべきだという見本として、失敗ごとここに残します。
残る謎たち — 読者への挑戦
しかし「太陽風→もやし」「一粒万倍→乾燥スープ」に、私たちはまだ筋の通る説明を持っていません。もちろん因果があるとは主張しません——40年×2つの窓で偶然が続いた可能性、私たちがまだ思いついていない共通の駆動源、その両方が残っています。もやしが「野菜が高い時の避難先」であること(天候→野菜価格→もやし、という別の鎖の影)を疑っていますが、これも検証待ちです。いかの仮説が上の通り潰れた今、4つとも正真正銘の「未解決」です。
統計でいちばん面白いのは、きれいに説明がついた瞬間ではなく、説明が尽きても数字が残ってしまった瞬間かもしれません。もし面白い仮説を思いついたら、お問い合わせからぜひ。謎の続報はこのページに追記します。
【追記】もやしの謎に、有力な「平凡解」が見つかりました。その後、消費者物価指数(品目別価格)と購入数量のデータを機械に追加したところ、圧倒的に強い関係が現れました——野菜が高い月は、もやしを買う「量」が増える(ρ=+0.75。支出額ではなく数量で確認)。もやしは天候不順で野菜が高騰したときの避難先だったのです。太陽風との弱い相関(+0.23)は、野菜価格の揺らぎ(天候由来)と太陽活動の周期がたまたま重なった影、という説明が最有力になりました。宇宙ではなく、八百屋の値札でした——ただし正式な確認は次の検証データ(2027年)を待ちます。
5 追記(2026-08-16): 2,110変数の総当たりでも、消えなかった
その後、この謎たちに最後の網をかけました。手元にある全2,110変数(物価790品目・景気・収入・移動・死因別死亡まで)を1つずつ「これが本当の原因では?」と差し引いてみる——もやしの謎が「野菜の値段」という真犯人の発見で解けたのと同じ操作の、全数版です。
結果: 誰にも消せませんでした。地磁気→コーヒーも、一粒万倍→乾燥スープも、VIX→いかも、手持ちのどの変数を差し引いても立ったまま。しかも地磁気→コーヒーは、ラグを0〜12か月まで振ると3か月後だけに山がある単峰の形をしており、ノイズが偶然作る形ではありません。説明はいよいよ「まだ測っていない何か」か「壮大な偶然」の二択に絞られました。答え合わせは2027年のデータで行います。
この記事の正直な教訓
①十分たくさん試せば、あり得ない相関は必ず「有意」になる。②その大半は初見のデータで死ぬ——だから答え合わせ用のデータを先に封印しておくこと。③それでも死なないものが、ごく稀にある。それを「発見だ!」と騒がないこと。「未解決」という棚を持つこと。——健康食品の広告で「〇〇と相関!」を見かけたら、この記事を思い出してください。その相関は、私たちのもやしと同じ検査をくぐり抜けられるでしょうか。